2011/02/24

包丁の話



日出る処の天子
などで有名な山岸玲子の漫画を雑誌ではなくコミックで読んでた時に
ほら、よく、
巻末に本編ではなくてエッセイみたいおまけ漫画ページがあるじゃない?
そこにこんなエピソードが載ってたんです。

彼女が小さな頃、多分小学校の低学年の頃、1人で友達の男の子の家に行った。
その友達の家はとても貧乏で鍵っ子でバラックみたいなのに住んでいて
他におかしがないからと彼女のためにリンゴをむいてくれた。
そのむいてくれたのが果物ナイフではなくて
刺身包丁で小さい彼女はとても恐かった。
なぜなら彼女はそんな尖った長くて細い包丁を使った事がないから。
そういう包丁は大人だけが使う物だと思っていたから。

そのリンゴをむく途中で彼がその包丁を落とした。
それも彼の足の甲の上に。
そしてその包丁はその甲にぶすりとまっすぐ立ったのだ。

!!!

彼女はびっくりして慌てだけど
彼は冷静にその包丁を抜いて水で洗って、
そしてリンゴをむいて
彼女に差し出してくれた。

それで彼女は大丈夫?ってきいたけど
彼は冷静に大丈夫とオロナインを塗っただけ。
彼女は恐くなってリンゴも食べずに帰った。。。
という話。

それが装飾のない淡々としたデフォルメされた簡素な絵で描かれていて
別に先端恐怖症でもないんだけど
とっても恐かったのを覚えている。
確か、彼女はその男の子とのその後のエピソードを覚えてない
みたいな終わり方だったと思う。

そして、それから長い年月が経ったある日、
台所で何かを包丁でむいていた私の手が滑って
裸足にスリッパをはいていた私の足の
アキレス腱のちょうど反対、
足の甲と足の継ぎ目あたりに
包丁が刺さったのです。
一瞬だけど立ったのです。
傷口にして8mmほど。

確かに血は出たけど、
そんなでもなかった。
そしてそんなに痛くもなかった。
冷静にオロナインと絆創膏を貼ってみた。

その時に、忘れていたそのエッセイ漫画を思い出したのです。
あのとき、そんな事あるかな?と思ってたけど
そんな事はあったのです。
そして、ある程度年齢を経て傷の治りの悪い私、
傷は治ったけど、その傷の縦の筋の跡が今でも残っています。

その跡をお風呂でなでるたびにあの漫画を思い出すのです。

昔の記憶って、ずっと残ってる物なのかしら?
何かの拍子にその記憶がわああっと溢れ出るように蘇る事があるけど。
それまではずっとその機会があるのを待ちながら
意識下で息をひそめている物なのかしら?

その時に、昔小学生の頃に
そういう男の子の家に、お楽しみ会の練習に行った事も思い出してしまう。
今ならあんな家はないのかもしれないけど。
リンゴは出してくれなかったけど
後で帰ってきたお母さんがお菓子をだしてくれたなあ。

今、芥川賞をとった きことわ を読んでいて
それは昔遊んだ家に20年振りに行った女の子達が
幼い頃の記憶を何かに触れるたびにうわああっと思い出すという物語で
誰にでもそんな事ってあるんだなあと思っているのです

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