2010/11/09

大人の深夜特急、天涯

twitterでは何度もつぶやいているんだけど、
沢木耕太郎の「天涯」が かっこよすぎます

かっこいい、なんて使い古された言葉でいうのもなんだけど、
この6巻からなる紀行写真集
副題からして
天涯
1 鳥は舞い 光は流れ
2 水は囁き 月は眠る
3 花は揺れ 闇は輝き
4 砂は誘い 塔は叫ぶ
5 風は踊り 星は燃え
6 雲は急ぎ 船は漂う
と、沢木耕太郎でなければつけることができない気障な言葉たち。

「私は旅をする」

「だが、私は旅をしていない。汽車にも乗らず、飛行機にも乗らず、船にも乗らず、ただ机の前に座っている。出発していない私には無限の自由がある」

という文章から始まる紀行文は
旅のスナップ写真と旅先での散文と
沢木の蔵書から選ばれた小説の中の旅について書かれた文章

彼の丁寧で品行方正でいてかっこよすぎる文体に
くらくらきます。

私はこの本をある新聞社の記者の方から
写真がいいよと貸してもらったのですが
旅の写真たち、この写真が美しい綺麗な写真ではなく
ピントがずれていたり動いてたりしてるのもあっても
それがまたかっこいいというか
カメラマンではない沢木が撮ったからでこその写真なのです。
中でも組写真といって何枚もの写真を組み合わせて楽しむ写真があるのですが、
1枚目ぼけてぶれて人物が写っている
2枚目全体をうつしている
3枚目ピントがちゃんとあって皺を深く刻んだイタリア人のおじいさんが写っている
という風に物語を感じさせる写真達、
これがいい。
うらやましいぐらいにかっこいい。

沢木と言えば
もちろん誰もが青春時代に通った道、
深夜特急ですが
あの、さ〜今すぐ私は旅に出なければ!と気持ちをかきたてられる本から
10年ほどたって書かれたこの本は
しっとりじんわり旅への欲求を感じる事ができます。

写真の横に書かれた散文がその写真と関係あるかと言えば
そうでもなく
いや、でもその世界観は繋がっているようで
ぞくぞく来ます。

旅について書かれた数々の小説たちの1シーン、
こんなにたくさんの本を読んでいて
その上ピックアップできる力、
本当に沢木本人がしてんの?編集者じゃないの?と思ってたら
この5巻の巻末の1/5ほどは全て旅についての講演をかきおこしたものになっていて
本を選んだ過程も話していて、
またまたその知の力がうらやましすぎるのです。
講演では彼の写真に対する考え方も話していて、
とっても興味深い。
僕はカメラには詳しくないので気持ちのままに撮ってるのです。
みたいな。
詳しくないのがかっこええな〜。

最近、新しいカメラになって2chでそのスレを見てると
アンチの人たちが、そのカメラの悪口を専門用語でいっぱい書いてるのを見過ぎたので
詳しすぎるほうが気持ち悪いんじゃないかと思ってたとこ。

ああ
この日記、何度もかっこいいと書き過ぎてヘタクソな文章なんだけど
他に思い浮かぶ言葉がないんよね。
みんなに読んで欲しいんだけど
かっこよさが伝わってないよね〜。

夜中のラブレターのような
旅からのエアメールのような 文章と
旅先でのきらめきの瞬間を切り取った スナップと
珠玉の小説たちのガイドとが
複雑にからみあった天涯。

昔旅に出ていて、
今は少し旅から遠ざかってる
私のような人がいたならば
ぜひ、手に取って欲しい
そんな本です。

天涯1〜6 沢木耕太郎 集英社文庫 


私の中で、深夜特急と共に
電子書籍化してほしい一番の作品です。

**********

天涯のマネ



















バーボンロックのグラスの向こう側に
旅した町の風景を見ると作家は言った。
思い出が自分の樽の中で熟成するのにどれぐらいの時間を要するのだろう。
普段の暮らしのあちこちに訪れた町を思い出す欠片は落ちている。
あの町で見た夕日を見る事はもう2度と出来ないとしても
何度でも夕日の中にいた自分を反芻する事はできるのだ。





















明日という日の長さは?
老人が尋ねた。
すると、今は亡い妻の若かりしころの幻影が答えた。
永遠と一日。
そこで映画は終わったが、私たちに一つの言葉が残された。
明日の長さは永遠と一日、であると。

沢木耕太郎 『天涯4 砂は誘い 塔は叫ぶ』

0 件のコメント:

コメントを投稿